INTERVIEW:

THA BLUE HERB

 

 
■今はアルバムであってもトータルで40分ぐらい、短ければ30分ほどでパッケージされたアルバムも少なくないですね。今回の2枚組というのは、そういった流れに対するカウンターという部分もあるのかなと感じたのですが、その意識はありましたか?
 
ILL-BOSSTINO「インタビューでそう訊かれることが多いんだけど、『あ、世の中そういうことになってるの?』っていう感じなんだよね。だから、そういうカウンターの意識はまったくない。確かに早く仕上げて、早くリリースして、リスナーも早く消費して、早く次のリリースに漕ぎ着けるっていうスピード感が今のトレンドなのかもしれない。だけど、それは俺らの20年以上のキャリアの中の最近の2~3年。音楽の歴史からしても単なる最近のトレンドってだけの話だから、構う必要はないんじゃないかな。それより、ウータンやビギー、それ以前からHIP HOPに限らずいろんなミュージシャンが挑戦してきた『2枚組アルバム』っていう系譜に対して、俺らも爪痕を残したい。その気持ちの方が強かったし、カウンターと言うんなら、そっちに対して、だね。『俺たちも(音楽史に対して)やってやる!』っていうさ」
 
 
■喩えは大きいかもしれませんが、THE BEATLESの「WHITE ALBUM」やTHE ROLLING STONESの「メインストリートのならず者」といった「2枚組音楽史」の系譜に連なりたい、というか。
 
ILL-BOSSTINO「そこへの憧れっていうかね。そのアプローチも、今だったら出来るんじゃねえか?みたいな」
 
 
■「今なら出来る」、そう思えた理由は?
 
ILL-BOSSTINO「今が一番、心技体が充実してるからかな。俺は47歳だから、20歳のラッパーみたいにこれから先、メチャクチャ時間がある、やりたいことがたっぷりあるわけではない、正直。でも、70歳の人みたいに、それまでにやってきたことが背後に沢山あるってわけでもない。だから、その真ん中に今の俺はいると思うんだ。これまでの経験もあって、同時にここから先の領域もまだある。だからこそ、ここが一番良いタイミングな筈だ、チャンスだ、と思えたんだよね」
 
 
■“LOYALTY”にも「キャリアも中盤」というリリックがありますし、その意味でも、“中盤”として出来ることが、2枚組だったと。
 
ILL-BOSSTINO「だから、このアルバムが『キャリアも中盤』の第一歩だね」
 
 
■新しい一歩である、と。
 
ILL-BOSSTINO「俺たちからの影響を語ってくれるアーティストがいたり、そういう流れで俺らを知って『TBHってどういうヤツらなんだろう?』って、YouTubeで調べたり、最近解禁したサブスクで聴いてくれるような人も増えてると思う。それ自体はありがたい。ただ、その作品の俺らは、もう『過去の俺たち』なんだよね。だから、もう一度、俺たちの最新の形で、全方位に力を見せる、このアルバムでもう一度『始める』っていう意識があった。このアルバムでみんなに改めて挨拶をする。またエントリーするような気持ちだよ」
 
 
■今回のアルバムが「TOTAL」の後にリリースされているのも興味深いです。「TOTAL」はタイトル通り、自分たちの自意識や自認する存在理由のような部分を、総合的にまとめた作品だったと思いますし、「そこで決着した先のトータル」を、このアルバムでは提示しようとしているのかな?って。
 
ILL-BOSSTINO「これまでリリースした4枚のアルバムは、“起承転結”だったと思う。99年の1st『STILLING, STILL DREAMING』で自分たちの存在を提示して、02年の2nd『SELL OUR SOUL』で更に深いところまで行って、07年の3rd『LIFE STORY』でそれまでとは違う展開に転じて、12年の4th『TOTAL』でそれらを結んだ、っていう。その活動の中で俺らは十分やれたし、十分に感謝も伝えられたので、区切りを付けよう、と。逆を言えば、そういった道程を経て、今回で遂にTBHが完成したと思う。だからこそ、『THA BLUE HERB』っていうセルフ・タイトルをこのアルバムに名付けることが出来たんだ。『TBHはこういうヤツらです』という作品だと思うし、リエントリーの作品だよね」
 
 
■その意味でも、マンネリズムとは違う意味で、これまでのTBHと変わってないし、それをより深化した形で、「今のTBH」としてパッケージされていますね。
 
ILL-BOSSTINO「歌うことはまだまだたくさんあるしさ。20代や30代の作品だけが常にリリースされて、自分らの世代のラッパーの作品があまりリリースされないっていうのは、ちょっとバランスが良くないと思うんだ。やっぱりいろんな世代で見える景色って違うし、俺ら世代の人間でも、それぞれの生き様を作品で発表しないと面白くないよ。いろんな世代の視点があればあるほど、世代間の違いも露わになるし、変わらない部分も発見できるだろうし、そうやってどんどん相乗効果で上がっていくべきモノだと思う。ヴェテランの役割って、そういうところにもあるよね」
 
 
■“視点”が今作でも重要なポイントだと感じました。自分の思想や、社会や歴史、自分のこれまでや関わった人々、地元、っていう非常に普遍的なテーマが今回の中心になっているし、それをどうTBHの視点とリリシズムから描くかという、そのアプローチ自体も非常に普遍的ですね。
 
ILL-BOSSTINO「やっていることは他のラッパーと変わらないよ。俺らもHIP HOPを通してアメリカのゲットーの黒人たちの生活を垣間見て、そこに衝撃を受けたし、それが自分がHIP HOPに向かう初期衝動だった。そして時間が経って今の日本を見回してみたら、東京にしろ、沖縄にしろ、西成にしろ、川崎にしろ、俺らの札幌にしろ、どの街にも特色と同時に、他と変わらない部分がある。だから、同じようなトピックをどうやって切り取るかの“技” — 『ラッパーの技量』が問われるっていう意味では、普遍的なことをやってるよ。そして、それはラッパーならではのユニークな勝負だし、俺はそこにメッチャ拘ってる。『ラッパーとは、HIP HOPとは』っていう部分に」
 
 

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