INTERVIEW:

田我流

■このアルバムでも、“Hustle”では「金銭と社会システムに対してどうにか自由になりたい」って歌ってるけど、アルバム全体として金銭にまつわることも多く歌詞になっていて。だから、金銭や資本主義のシステムからどうにか距離を置きたい自分と、そこから自由にはなれない自分という自己矛盾であったり、引き裂かれる田我流の姿があって。金銭以外の部分でも、そういう“矛盾”や「引き裂かれる」というモチーフが、このアルバムに通底してると思いました。
「そう。1曲ごとにずっと行ったり来たりしてる、みたいな。そういう風に頭を使って聴いてくれる人、玄人的な聴き方をしたい人にも聴ける余地っていうのはちゃんと作ったつもりで。でも、だからこそ、インタビューでその答え合わせをしちゃうのは面白くないから、ちょっとそこは黙っておきます(笑)」
 
■そういった謎解きの部分は、フィジカル盤のブックレットに付いてる制作後記でも田我流君自身が言葉にしていて。だから、ヒントはたくさん作ってありますね。
「ブックレットやジャケットのアートワークも、楽曲と全部リンクしてるんで。だから、CDを買ってくれるコアなファンに向けて、フィジカルで完結させるっていう方向性は考えてますね。サブスクで聴いてもらうのも全然嬉しいんですけど、サブスクだけで表面的に聴いて、この作品に文句を言ってる人がいても、パッケージで聴いてる人は『分かってないな、アイツ』って感じると思う(笑)」
 
■そういう落とし穴が(笑)。その意味でも「トータルとしてのアルバム」になってますね。
「セルフ・プロデュースだし、トータリティは前よりは高いアルバムになったと思いますね」
 
■矛盾という意味では“Deep Soul”では「I Gotta Be A Greatest」って言いつつも、同時に“Simple Man”では「昔はなりたい凄い男/今はありたい気楽な男」とラップしていて。そういう両極の自己目標もアルバムの中には併存してて。
「超矛盾してるんですよね。でも、その表現の方がリアルで嘘がないと思ったんですよね。なんのために“Greatest”でありたいのか、何故“Simple Man”でありたいのか、っていう答えは言いませんけど、全体の構造を考えてくれると分かると思うんですよね。“Deep Soul”の“Greatest”も、『防衛して自分自身を保つための曲』って感じなんだけど……」
 
■最後には「何のためのGreatest」っていう言葉が登場して、その目的が明確なのか不明確なのかは、フワッとさせている。それもすごくリアルに感じたんですよね。
「ボクサーはあんな思いまでして何のために戦うのか、その根源的な理由は何なんだろうか、みたいな意味で、『何のために俺は動いてるのかな?』っていう。それは音楽でもそうだし、仕事もそうだし、そう考えることは、避けては通れないと思うんですよ。そこを避けちゃうと、生きるのにブレが生じてくるから。でも、それはみんな考えることだと思うんですよね」
 
■その意味でも、誰でも感じる、みんなにあるリアルを形にしていると思います。
「そうですね、普遍性みたいな。それぞれ『今の自分で大丈夫かな……』って思う時間とかってあるじゃないですか。俺はそれを肯定したかったんですよね。でも、俺はひねくれてるから、そういう本当に大切なことはサラッと歌うようにしてて(笑)。そういう部分をさらっと書くことで、逆に人間らしい部分をリアルに描けたのかな、と思う」
 
■先程、整理という言葉がありましたが、“Hustle”や“Broiler”などの前半部では、自分を取り巻く環境みたいな部分を認識して言語化して、楽曲化していく作業が中心になっていますね。
「まず整理して、っていう。そこから始まりましたね」
 
■ライナーの中でも、今回のアルバムを「自分の心の言葉」というニュアンスで表現しているけど、その意味でも、自分の心の言葉は何故発生してるのかを整理したり、認識して、それをどう表現するかがすごくリリカルな形で描かれてると思います。
「書き方が上手になったとしたら、設定がしっかりしたからだと思いますね。ジャケもSFアドヴェンチャーって感じだけど、そういう風に、SF仕立てだったり、設定があってキャラクターが喋ってる、みたいな感じ — 物語として落とし込んでいくスキルは前より身についたのかな?って」
 
■それによって田我流君の主体性と第三者的な他者性が併存しているので、すごく間口が広くなっていますね。
「客観的ってすごく重要だな、って大人になって尚更思ったんですよね。やっぱり家族が出来ると、そこで言葉遣いとかも気を使わないといけないじゃないですか。そういう部分で客観性だったり『どうすればちゃんと伝わるのか』っていう部分は養われた部分がありますね」
 
■“Broiler”の内容は、石田徹也の『燃料補給のような食事』という絵を想起させられるけど、これを今思ってる人は本当に多いんだろうな、って。
「でも、ある意味では当たり前のことって俺は思ってて。そういう状況に対して『……だからなんだよ!』みたいな。言ったら『AKIRA』みたいなノリっすね(笑)。めちゃくちゃクソだって分かりきってるから、そこに対して思いっきりバイクふかして、みたいな」
 
■システムに諦念を抱いたり隷従するんじゃなくて、よりパンキッシュな形で開き直るというか。
「『俺らは俺らじゃん!』みたいな。それぐらいの勢いで生きないといけない時代なのかな?って俺は思ってるんですよね。社会のことと向き合うのは大前提で、その上で『じゃあそれをどう乗り越えるか』っていうのを書きたかった。いつも苦労してるのは、自分の問題提起に対して、いち個人としてそれに対してどう答えを出すか、なんですよね。でも、その答えが確実な答えじゃなくても、ただ前に進むための何かがそこにあるかどうかが、俺の中のリリックのOKラインなのかな?と思ってて」
 
■“Vaporwave”はアルバム前にリリースされていましたが、この曲を先にリリースした理由は?
「理由は特にないんですけど、情景描写のみで組み立てた曲は作ってみたかったんですよね。ただ状況が羅列されて流れていく、情景描写のみの、ヴェイパー・ウェイヴみたいな曲を作ってみたかったんですよね。延々と何もないところで物語が進んでいって、結論としても『この街時代がVaporwave』っていうワン・ラインで終わり、みたいな。そういう『何もなさ』がよく表現できたな、と思いますね。それもあって、自分としては完全に実験でしたね。ヒットするための曲を作るのも実験だけど、アルバム単位で考えれば全部の曲が売れる必要もないし、こういう実験も必要だな、って」
 
■一方で、そういう状況の中で中心になっているのが「ガキが屯するイオン/とりあえず寄るATM」っていう巨大資本だっていう部分は、すごくショッキングな表現だとも感じて。また“Cola”では「気がつけば仕事になって/結構汚れちまって」っていう表現があるけど、田我流君もそう思う部分があるんだな、って。
「思いますね。そう感じなくなったらおしまいかな、まだ実感してるだけマシか、っていう気持ちもあって」
 
■“Back In The Day 2”ではGETO BOYSネタを使ってるけど、この意図は?
「単純に好きだから(笑)。でも、トラック的にGETO BOYSだったのは結構重要なんですよ。この制作の中で、自分のルーツも含めてHIP HOPについて考え直すことがあって。最初のルーツになるのは90年代のイースト・コーストHIP HOPなんだけど、自分の中で二度目のブームは2000年代のサウス。そのときに、自分の町(笛吹市/旧一宮町)とstillichimiyaに合ってるのはやっぱりサウスだと思ったんですよね。だからGETO BOYSやOUTKASTのほうがフィールできる部分が大きくて。今も、俺はキャピタルに住んでるわけでもないし、その部分でもフィール出来る要素が大きかったんですよね。サウンド面でも、やっぱりサウスはバウンシーでリズムが面白いし、ものすごい好きなんですよね。今も更に好きになってきてるし、それは今回のプロダクションの中で重要な要素でもあって」
 
■今回のアルバムはラップのバウンシーさも含めて、リズミカルな要素がすごく強いですね。
「それは俺にとって本当に重要な要素なんですよ。多くの人が俺のメインとなるのはEVISBEATSとの“ゆれる”や“夢の続き”だと思ってて。それが代表作だって思ってもらっても構わないけど、やっぱりあれは客演仕事なんですよね。だから、俺は俺で自分のやりたいことを突き詰めて考えると、バウンシーな音楽だし、ファンキーであることは、自分の中ではかなり重要な要素なんです」
 

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