INTERVIEW:

田我流

「今の世の中、情報がありすぎるし、情報量がとにかく過多だと思うんですよね。その状況の中で、そこに更に情報を乗せるよりも、シンプルなものの方が伝わりやすいと思ったんですよね。今は自分の出来ることと出来ないことがハッキリしてきて、『もうありのままでいいっしょ』っていう部分がすごく強くなってるし、それもあって、シンプルな方向に進んだと思いますね」

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 「B級映画のように2」から7年という、決して短くはない時間を経てリリースされた田我流のニュー・アルバム「Ride On Time」。その間にはバンド隊との作品となった田我流とカイザーソゼ名義での「田我流とカイザーソゼ」やKM“夜のパパ feat. 田我流”などの客演仕事、FALCON a.k.a. NEVER ENDING ONELOOPという変名でのリリースだったビート・アルバム「THE NEW MYSTERY」のリリース、そしてクルー:stillichimiyaでの快作(怪作?)「死んだらどうなる」の制作やコンスタントなライヴ活動があり、決してシーンから離脱していたわけではないし、その名前は高まり続けていた。
 
 そして、その7年を経てリリースされた本作は、アルバムのライナーで執筆された制作後記にも書かれている通り「自分の心の声に焦点を当てた」作品となっている。そこで描かれるのは、単にインナー・スペースを覗いて、それを抽象的に描き「自分の心の声」とするような自己撞着したモノではなく、自分と社会との関わりや、自分と地域、自分と家族など、様々な「自分を取り巻くもの」と「自分との関係性」を言語化し、整理し、その上で自己世界にはなにが起こっているのか、自分にとって根本になるものは、そして自分の希求するものは、を作品に落とし込んでいく。その意味でも、社会的生物としての自己と、よりシンプルな自己など、多様な自分の在り方を腑分けし、「心の声」にたどり着く本作。その声の発する方向を確かめてほしい。
 
 
■今回のアルバムですが、全体の感触としてはすごく自分の内面に向かった作品になりましたね。
「そうですね。それは人生の転機があったからかもしれない」
 
■それは楽曲やジャケットでも表現されるように、結婚やお子さんが産まれたり、ということ?
「そういうのもあったし、30代って絶対人生の転機が来ると思うんですよ。サラリーマンだったら独立を考えたりとかもあるだろうし。そういう歳に差しかかっての作品だったから、アプローチも今までとは自然に変わったんだと思いますね」
 
■人生の時間軸の中で起きた変化によって、今回のアプローチが生まれた、と。
「そう考えてるときに、今回の『Ride On Time』っていう言葉がパンって降りてきたんですよね。それで、そのキーワードの中に全部を詰め込んだのが今回のアルバム、というか」
 
■このタイトルは何かのメタファーというよりも、自然にポンと浮かんだということ?
「そう。当然、山下達郎さんのアルバム・タイトルと通じてると思われがちだけど、実際聴いてもらえば分かる通り、全然関係ない(笑)」
 
■関係あるのは、盤面の謎の似顔絵だけという(笑)。
「このタイトルを直訳すると『時間に乗れ』になると思うんだけど、その言葉がすごく面白いな、って。時代的にも結構ギスギスしてることが多いし、自分の人生の転機だったり、いろいろ大変なこともあったり……」
 
■そういう“時間軸”の中で考えたことがアルバムに反映されてるという意味では、今回のタイトルは作品性とはズレてはいないですね。
「だから、そういう時間の流れの中で自分なりの希望を見出したり、『自分をまとめていく』っていう感覚が強かったと思う」
 
■確かに今回のアルバムは、自分の状況だったり、自分の思いを言葉にして整理するような作品だと思ったし、言葉にして自認して、「自分をまとめる」作品になったと思います。だからこそ「B級映画のように2」のカオティックさとは違って整理されているし、すごくシンプルなアルバムにもなってるな、と。
「めっちゃシンプルにしたんですよ、今回は。言葉も超シンプルにして。今の世の中、情報がありすぎるし、情報量がとにかく過多だと思うんですよね。その状況の中で、そこに更に情報を乗せるよりも、シンプルなものの方が伝わりやすいと思ったんですよね。難しい言葉を使ったり、複雑にしたりっていうのは、ボースティングというか、虚栄心があったんだと思う。でも、今は自分の出来ることと出来ないことがハッキリしてきて、『もうありのままでいいっしょ』っていう部分がすごく強くなってるし、それもあって、シンプルな方向に進んだと思いますね」
 
■シンプルと言っても、単純な内容を単純な言葉でラップするわけじゃなくて、自分の状況や内面という、自分では最も掴みづらいものを、どう平易な言葉で掴もうとするかというチャレンジであるとも感じて。
「そうですね。シンプルな言葉で、出来るだけ自分の深い部分をどれだけ書けるか、っていうか。歳を重ねてるから、考えることは自然と深くなるけど、それを深い言葉で表現するってのは、いまの自分のやりたいことじゃない。それよりも、そういった部分を“パンチライン”として表現したかった」
 
■だから、深度は深くなってるけど、表現としては軽やかですよね。
「『B級映画のように2』のときは、10割で作ってそのまま形にするって感じだったけど、今回は10割で作ったものを6割に削って作品に落とし込むって感じなんですよね。俺ら、もう大盛り食えないじゃないですか。昔は大盛り食ってもガンガン動けたけど、いま大盛り食ったら午後は全部潰れる、みたいな(笑)」
 
■唐揚げ定食大盛りは、食ったらもう寝ますよね。
「寝る。仕事よりも、膨満感で忙しくなっちゃう(笑)。だから、また来たくなる定食屋の普通盛りのちょうど良さ、みたいな感じを目指したと思いますね」
 
■今の話だと、作品の根本の密度は10割なんだけど、それをリスナーに提供するときには敢えて6割にすることで、リスナーにも余力がある形で受け止められるように構成した、ということですね。だからか、「B級映画のように2」のときのような、聴き通すのに体力と気力が必要なものではなく、リピートしても聴き疲れない構成になってるな、って。
「単純な部分では、ヴァースを一個減らしたっす。ちょっと昔までは3ヴァースで完結だったけど、今は2ヴァースで構成しよう、って」
 
■2ヴァースで言い切るというか。
「逆に、言い切らないで終わるのもひとつの手かな?と思ったんですよね。それが出来たのは、今回はFALCON名義で自分でも多くビート・メイクしてるから、構成の自由度が増したからって部分もあると思いますね。ただ、作品にはいろいろな引っ掛かりのトリガーみたいなのは沢山残してあって、よく聴くと『これ全部繋がってるじゃん!』って思えるような構成にしてるんですよね」
 
■それは、作品内での矛盾も含めて繋がってたりしますよね。
「正に“自己矛盾”は、作ってるときの一番のテーマだったんですよね。人間ってみんな自己矛盾してるじゃないですか。やりたいことと、自分が現在やってることは違ったりするし。それに、面白いラッパーって自己矛盾が激しいですよね。2PACとか特にそうじゃないですか。めちゃくちゃ優しい部分とめちゃくちゃ鬼みたいな部分とか」
 
■人間愛と他者蔑視が同じアルバムで同居してたり。
「『お金が欲しい』って言ってるのに『金はいらない』とか。そういう葛藤はみんなに当てはまるから、そこにフォーカスを当てたんですよね」
 

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