INTERVIEW:

ANARCHYによる「The KING」全曲解説

「参加してくれたラッパー全員の気持ち -- みんな、自分の人生を切り売りして身を削って、自分をさらけ出しながら作ってる。そんなのラッパーだけやないですか。そこが、他のジャンルにはないHIP HOP/ラッパーのヤバイとこやと思う。だから、このアルバムでは『俺の価値』というより、『ラッパーの価値』を示したかったんです」

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 ANARCHYのキャリアについて語る際に意識しなければいけない点として、彼は常に「(自分にとって)新しいことに挑戦する」というテーマを持ち続けているということが挙げられる。
 
 振り返ると、「DIGGIN’ ANARCHY」(2011年)でMUROが全曲のプロデュースを手がけたことや、BILLBOARD LIVEでフル・バンド体制のワンマン・ライヴを敢行したこと、「DGKA (DIRTY GHETTO KING)」(13年)をフリー・ダウンロード形式でリリースしたことや、その後のメジャー展開や前作「BLKFLG」(16年)で30分近くに渡るショート・ムーヴィーを制作したことなど、彼が発表するプロジェクトには、常に何かしらの「新たな挑戦」が行なわれている。好奇心が旺盛で、良くも悪くも(?)飽きっぽい性格とも言えるANARCHYにとっては、こういったチャレンジは、彼がモチベーションを保ち続ける上で重要な要素なのだろう。
 
 2年振りに発表されたニュー・アルバム「The KING」でもその意識が健在であることは、誰の目にも明らかだ。今作のリリース発表時に話題になった点としては、まず、フィジカル(CD)盤の価格が1万3,000円という点だろう。過去にも、先日凶弾に倒れ亡くなってしまったLAのラッパー:NIPSEY HUSSLEがミックステープ・アルバムを100ドルで販売したことが大きな話題を呼んだりしたことはあるが、当時はインディ・アーティストだったNIPSEYと違い、メジャー・レーベルに所属するANARCHYにとっては、かなり大胆且つ、ビジネスとして考えるとリスクもある価格設定だ。
 
 そしてもう一点は、アルバム冒頭を飾るタイトル曲以外の楽曲全てにフィーチャリングを入れたコラボ・アルバムという仕様。ANARCHYは、自分のアルバムではノー・フィーチャリングで臨むという拘りを持ち続けるタイプのラッパーではなく、これまでも要所で様々なアーティストを客演に起用してきたが、(ほぼ)全曲に客演を入れるコラボ・アルバムという仕様もなかなかの振り切れ方だ。
 
 今回のインタビューでは、多彩な面々が一同に会した「The KING」を全曲解説形式で語って頂き、初監督を務め、今年の公開が予定されている映画『WALKING MAN』のような、今後の「新たな挑戦」についても語ってもらった。
 
 
■アルバムとしては2016年に「BLKFLG」をリリースして以来の新作ですね。今作は、いろんな意味でトピックが豊富なアルバムだと思います。まず、出発点としてはどんなアイディアが生まれて「The KING」の制作に向かったんですか?
「出だしは、そこまで深く考えてなかったです。例えば般若君との“Kill Me”なんかは1年以上前に作った曲で。『ちょくちょく作っていったらフィーチャリング・アルバムみたいなのが出来るやろな』みたいな感じではいたんですけど。(当初は)全曲、フィーチャリングを入れようとまでは考えてなかったけど、いろんな人と演りたかったし、この後に向けてのヴィジョンもちょっとあって、今回はその方向性をやり切りたいな、って。そこで、『いろんな人と演ろう』ってとこで、ちょくちょく長い期間をかけて作っていきましたね。こんなに長い期間作ってたことは、これまではなかった。いつもは3~4ヶ月ぐらいで作るのが、今回は1年ぐらいはかかりました」
 
■「BLKFLG」にもいろんなラッパーが参加していましたけど、前作の制作がキッカケでコラボ・アルバムを作りたい欲が生まれたんですか?それとも、単純に自分主導でアルバムを作り上げる作業に飽きていたとか?
「それ(コラボ)が面白くなったときやったんですよね。今まで、やりたかったけど出来なかった人が多くて。般若も自分のアルバムに入れたことはなかったし。『自分だけでは作れへんモノを作りたい』という想いはありましたね」
 
■それは、「このメンツ/豪華さはANARCHYじゃないと集められないだろう」ということも含めての話?
「それは、最終的にそう思えるようになったんですけど、作ってるときはそこまでは考えてなかった。単純に、『この人と曲を作りたいな』っていうところで作っていって、曲が溜まったらアルバムにしようかな?みたいな」
 
■これまでのアルバムの作り方だと、ある程度の全体像やアルバムのコンセプトに沿った曲を作っていかないといけないから、そこと合わなかったらいくら一緒に演りたい人がいたとしても出来なかった、という面もありそうですよね。そうなると、コラボ・アルバムの方向に振り切った方がいいですよね。
「昔から、コンセプトがあってまとまりのあるアルバムが好きだったし、これまでのアルバムにも客演は入れてたけど、『いろんな人がいっぱい参加しているアルバム』という発想がなかったんですよね。そういう意味では、今回は今までと全然感覚が違う。制作は、『楽しい』しかなかったですね。刺激にもなったし。いろんなラッパーと演るっていうことは“勝負”みたいに考える部分ってラッパーはあるじゃないですか?俺、そういう感覚は今作に関してはあまりなかった。一緒に誰かと演ることで、俺に出来ひんこと — IOと演るときは彼の方に寄せるし、MIYACHIと演るんやったら彼のスタイルを踏まえた上でのラップを書いた。『(客演アーティストに)合わせた』って言ったら変なんですけど、『良い曲を作りたい』っていうのが一番、キモでしたね。『俺(の存在感)が死んでもいいから』じゃないけど、俺よりカッコ良いヴァースが入っててもよかった」

■CD盤の価格が1万3,000円ということも話題ですよね。要するに、1曲=1,000円ってことだと思うんですけど、この価格設定にした理由は?
「ずっと思ってたことなんですよね。一回、自分の作品に自分で“価値”を付けてみたいな、って。音楽自体に価値は、やっぱり付けられないんですよね。例えばiTunesにも定価の設定が決まってたりするし、それは決められたルールやし、仕方ない部分もある。だけど、作った“モノ”には値段を付けることは出来るじゃないですか?」
 
■本来、価格設定は自由な筈ですからね。
「絵を描いた人が『この絵は1億円です』って言ったら価格が1億円になるワケでしょ?オークションで値段が上がることもある。以前、LAURYN HILLのライヴを観に行って。そのチケットが4万円とかだったんですけど、『高ぇ~』と思いながらもチケットを買って観に行ったんですよ。だけど、ライヴ後の帰り道、『全然高くないな』って思ったんですよね。それって捉え方次第やし、『その値段を出したから良かった』と思うこともあるじゃないですか。洋服でも、10万円したジャケットやったら一生着るかもしれない。モノの価値に対する考え方って人それぞれやし、1万3,000円を『高い』と思って聴く人もいれば、より大事にしてくれる人もいると思うんですよね。多分、(CDを)飾っちゃうんじゃないかな?って(笑)。『CDはもう売れない』って言われてる時代な中でも、それでもみんな身を削って作品を作ってるし、MVを作るのに何百万円もかかったりする。だから、この価格なだけの価値は全然ある、と俺は思ってるんです。これからもコレを続けようとは思ってないですよ。一回やってみたかっただけ。あと、12人のラッパーとやったからこの価格に出来たんです。俺のソロ・アルバムだったらこの価格にしてなかったと思う。参加してくれたラッパー全員の気持ち — みんな、自分の人生を切り売りして身を削って、自分をさらけ出しながら作ってる。そんなのラッパーだけやないですか。そこが、他のジャンルにはないHIP HOP/ラッパーのヤバイとこやと思う。だから、このアルバムでは『俺の価値』というより、『ラッパーの価値』を示したかったんです」
 

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