INTERVIEW:

KEN THE 390

「そのときそのときに『面白そうだな』と思えることがあって、そこにどう自分をアジャストさせるか、アジャストさせたことでどうオリジナルなものが出せるかとか、そういう発想があるから作品を作り続けることが出来るんだと思いますね。そういうチャレンジがモチベーションであり、クリエイティヴな作業であり、単純に面白い」

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 ベスト・アルバム「KEN THE 390 ALL TIME BEST 〜The 10th Anniversary 〜」や、「ロック・ザ・ハウスEP」などのリリースはあったものの、フル・アルバムとしては「WEEKEND」以来の3年振りとなる「リフレイン」をリリースしたKEN THE 390。これまで、明確なメロディやコードにフィットしたより歌に近いフロウはあまり形にはせず、過去のインタビューでもメロディや歌に対するある種の苦手意識を話してきた彼だが、先行してリリースされ、今作にも収録された“五月雨の君に feat. 鋼田テフロン”では、オートチューンを使ったメロディアスなフロウを形にした。そして、そこから繋がっていく形で、このアルバムではメロディや音感が重視されたラップが基調になり、これまでのKEN THE 390像から一歩進んだ形が提示されている。そういったサウンド性に繋がって、作品の世界観も落ち着いたセンチメンタルさが強く表現され、彼の年嵩だからこそ表現できるような、しっとりとした感触が印象的だ。文中でも語られる通り、“アルバム”として彼が表現したかった世界を堪能して頂きたい。
 

 
 
■アルバムとしては3年振りのリリースになりますね。
「ベスト盤や『真っ向勝負』みたいなミニ・アルバムはリリースはしてたんで、止まってる感はなかったんですが、振り返ったらメッチャ久し振りのリリースですね」
 
■フル・アルバムというパッケージでの制作に進まなかった理由は?
「例えば『真っ向勝負』も、もう少し曲を足せばフル・アルバムの体裁にはなったと思うんですよね。ただ、そこで敢えて『フル・アルバムにする』っていう必然性をあんまり感じなかったんですよ。5〜6曲ぐらいで、コンセプトやサウンド・イメージを決めてまとめれば、それで作品として成立するし大丈夫かな、っていうのがここしばらくの意識だったんですよね」
 
“真っ向勝負”に関して言えば、瞬発力の楽曲だと思うし、アルバムの中にあるから意味が変わったりするようなタイプの曲ではないですね。
「だから、『逆に、なんでフル・アルバムが必要なんだろう?』って考えることもあって。それより、コンパクトであってもコンスタントにリリースした方が、それがライヴやツアーをするキッカケにもなる。今の自分たちのレーベルのスタイルがライヴを中心にしてることもあるんで、それが流れとしてもフィットするんですよね。しかも、時代的にもサブスクリプション/ストリーミングが視聴環境のメインになると、余計にアルバムでリリースすることの意味合いが以前とは変わると思って。単に作品集/シングル集だったらストリーミングのプレイリストでいいわけで、『この曲順/構成/曲数だから意味がある』っていうことじゃないと、アルバムの存在価値がないとも思ったんですよね。だから、いま自分の作ってる楽曲だと、現状ではフル・アルバムという形で制作しなくちゃいけない理由が思いつかんな、と」
 
■それがここ最近のケン君のムードだとすると、ここで敢えてアルバム制作に入った理由は?
「去年、舞台『TOKYO TRIBE / トーキョートライブ』で演者と音楽監督をやったんですが、その舞台の音楽監督の仕事として、シーン/幕ごとにかかる日本のHIP HOP曲を選んだんですね。もちろん、一曲一曲の内容は違うしアーティストも違うんだけど、それが舞台の中で通して聴くとひとつのストーリーとしても浮かび上がるような構成にして。それはミュージカルとしては普通のことかもしれないけど、個人的には初めての体験だったし、すごく面白かったんですよね。そして、そういう流れの作り方を自分のアルバムとしてもやりたい、と思ったんですよね」
 

 
■このアルバムだと、“after party feat. HISATOMI”と“月明かりの下でダンス”が、一番明確に時間的な繋がりを感じますが、そういう楽曲間で関連性や流れのあるアルバム作り、というか。
「そうですね。且つ、曲は“瞬間”にしたかったんですよ」
 
■舞台で言うと“一幕”になってる。
「そう。一曲の中で出会って別れるまで、みたいに時間軸が動くんじゃなくて、一曲の中では、出会う曲は出会うだけ、別れる曲は別れるだけ、っていう“瞬間”だけが表現されてて、時間の流れはアルバムの中で進んでいく構成にしたかったんですよね。それによって、単曲ごとに内容は成立してるけど、アルバムが進むことで時間の流れを感じたり、アルバムというパッケージとしてまとめることで意味合いが生まれる、という方向にしたかった。だから、今回は制作の初期段階から、アルバムの流れと曲ごとのコンセプトを決めて、それを元にトラック・メイカーにオーダーして、トラックが揃った段階で頭からリリックを書いていったんですよ」
 
■全体的には、じっくりメロディアスに聴かせて、ラップのトーンも低めだと思います。
「サウンド・イメージとしては、“五月雨の君に feat. 鋼田テフロン”を制作したときにやったスタイルに手応えがあって、それを突き詰めたいって別軸で思ってたんで、それが通底したんだと思いますね」
 
■盛り上がり曲もケン君の特徴だと思いますが、今回はそこを“インファイト feat. ERONE, FORK(ICE BAHN), 裂固, Mr.Q”以外では封印してますね。
「バチっとライヴで盛り上がる曲は既に持ってるんで、今作は敢えてそれを形にする必要がなかったんですよね。それよりも、これからのライヴ構成や自分の年齢、キャリアを考えると、ムーディでロマンティックな曲がもっと欲しいな、と思ってて。そして、それがあることで、ハードな曲がより引き立つとも思ったんですよね。その方がライヴの幅も広がるし、KEN THE 390のラッパー像が深みを増すんじゃないかな?って」
 
■メロウな質感のトラックが多いけど、ビート帯としてはTRAP的な感触もあり、ケン君もそういったラップの乗せ方をしている部分もありますね。
「そうですね。ただ、今の若い子たちのようなTRAP的な歌詞の世界観に、自分の年齢やキャラクターで乗るのはちょっと難しいんで、フロウや乗せ方はトレンドを意識しながら、歌詞の内容は自分らしくしないとな、って。だから、単語は突飛なモノ、オモロイものを選びがちにはなったけど、構成の仕方自体は今までとそこまで変わらないと思いますね」
 
■TRAP的な感触を作品に入れたのは?
「今、アルバムを出すのに、こういったビート感がないのは面白くないじゃないですか。流行のビートにどう乗せるかはラッパーのアティテュードだと思うし、そこに自分なりの答えを出したかったんですよね。そういう、そのときそのときに『面白そうだな』と思えることがあって、そこにどう自分をアジャストさせるか、アジャストさせたことでどうオリジナルなものが出せるかとか、そういう発想があるから作品を作り続けることが出来るんだと思いますね。そういうチャレンジがモチベーションであり、クリエイティヴな作業であり、単純に面白い。HISATOMI君を迎えた“after party”で、トロピカル・ハウスっぽい感触の曲をやってるのも、そのイメージですね」
 
■今の音楽の趨勢として、前奏は短く、フックまですぐ到達して、間奏もなかったりする曲が多かったりしますが、“夜が来るまで”などはTRAP的な感触があっても、ちゃんと間奏がありますね。
「この曲に関しては、TRAPぐらいのBPMでやっても、トラックにメロがあって、展開があって、音色もカラフルなモノっていうのを、トラック・メイカーのbaufuzzと相談しましたね」
 

 
■ラップの温度にも通じる部分があると思いますが、別れや思い出といった、センチメンタルな部分が強いですね。
「そもそものテーマ設定に加えて、夜っぽい、ムーディなトラックが多かったんで、寂しげなところが必然的に強くなったと思いますね。今、『FRESH!』でやってる僕のオフィシャル・チャンネル『KEN THE 390 FRESH!』で『Friday Night Club』っていうアコースティック・ライヴの企画をやってて。そのライヴはキーボード/パーカッション/ベース/ラップっていうミニマムな編成でやってるんですね。その流れもあって、どうしてもメジャー・コードな明るい曲よりも、じっくり聴かせるタイプの楽曲が志向の中心になってるんですよね。そこにフィットするリリックだと、こういうタイプになるのかな?って」

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