INTERVIEW:

GAGLE

■あと、ここ数年で一番衝撃だったというか、勝手ながら個人的に心配した出来事としては、ミツ君のハード・ディスクが逝く、ということもありました。傷口に塩を塗るような質問になってしまいますけど、何があったんですか?
DJ Mitsu The Beats「簡単に言うと、自分のミスでデータを全消去しちゃって、そのバックアップも取ってなかった、っていうだけの話です。更にハード・ディスクのエラーも絡んじゃって、復旧も出来なかったんですよね。6曲分ぐらい復活できた業者はいたけど、デモも合わせたら300〜400曲分ぐらいのデータが消えて。GAGLE用のトラックも、その時点で8割完成してたとしたら、その内の6割ぐらいは消えちゃいました。幸運だったのは、4〜5曲分は既にレコーディングしてたから、データがスタジオにあったんですよ。だけど、そこから更に自分でめちゃくちゃエディットしてたんで、その作業をやり直すのは辛かったですね」
HUNGER「それは辛いよねー。だから、違う作業をやりながら、エディットも思い出しながら違うアプローチでやってた気がする」
 
■その事件は、やはり「VANTA BLACK」の完成タイミングに影響したんですか?
DJ Mu-R「それがなかったら多分、『3年振りのアルバム』になってたと思います。だけど、その1年の間にいろんなことをプラスすることも出来たんで」
DJ Mitsu The Beats「すぐに作り直せば、あと半年早く完成させられたかもしれないけど、更に要素を詰め込みたくなっちゃって。それまでの期間にやってきた — 例えばライヴでHUNGERの声にエフェクトをかけるとか、ビートにもっとエフェクトを足すとか — そういうことを落とし込める時間が逆に出来ちゃったから、更に延びた。だから、そういう意味では……良い面はあったのかな?って(笑)。全然、結果オーライじゃないんですけどね。『あのデータ、なくなっちゃったかー』って思うことはあるし」
HUNGER「そうだよね。リリック帳とかをなくしたって考えると、ちょっとゾッとするね」
 
■しかも、以前のインタビューでも明らかにされてましたけど、ミツ君は自分がサンプリングしたネタとか覚えてないタイプですからね。
DJ Mitsu The Beats「まったくその通りですね。全然覚えてないんですよ。だから、復活できない(笑)」
 

 
■そういったことを踏まえると、完成して本当によかったですね。今作は「VANTA BLACK」というタイトルですけど、このタイトルが意味していることについて教えて頂けますか?
HUNGER「やっぱり、『サウンドありき』のアルバムなんですよね。兄貴のキャリア上、すごい転換期になる時期っていうのがたまにあるんですよ。スイッチが切り替わって、そこに一気に突き進むときがあるんですけど、そういう時期はMu-Rとふたりで見守ってる(笑)。それが2014年ぐらいで。今作で言うと前半の楽曲なんですけど、こういうタイプの曲が主軸になっていくから、『このサウンドを言葉にしたいな』っていうアプローチ — それが自分たちにとっての新しい表現になると思った。だから、サウンドに合わせて言葉を選んでいったんです。ブラック・ミュージック的な“黒さ”という部分においてはいろんな解釈があるべきだと思うけど、トラックが持つ“揺れ”や“土臭さ”、ルードな感じという意味でのUS的な“黒さ”ではないな、というか。より“テッキー”な感じというか、科学的な感じのような印象が自分の中にあって、『VANTA BLACK』というタイトルがしっくり来ると思ったんです。だから、USよりはヨーロッパ寄り — 元々、そういう要素はあったけどね」
 
■より無機質な感触が強いアルバムですよね。2015年に、代官山UNITで田我流との2マン・ライヴがあったじゃないですか。あの時期ぐらいから、ライヴでは今作に収録されている“Grand Gainers”を演ってましたよね。そのとき、僕もGAGLEが新局面を向かえているというのを感じました。簡単な言葉で言うと“フューチャー・ファンク”感というか。だから、最近思いついた作風ではなく、ここ数年間に渡って温めていた音楽性ということになりますよね。
HUNGER「そういうことになりますね。出発点としては、Mu-RがDJでかける音楽の志向から『コレ、ヤバイね』ってなって、兄貴がそういう作風に目覚めていくっていう。制作のプロセスとしてはそういう感じですね。そこから僕がリリックにして『GAGLEの音』にしていく、っていう。ライヴでも、Mu-Rが提案してくれるビートを使うことがあって」
DJ Mu-R「市販のインストを、ね」
HUNGER「要はブレンド的にそういうインストを使うことがあって、そこから『こういう音楽に対してどういう駆け引きをすればいいか』っていうのを、僕もだんだん理解していって。だから、ここ数年の活動がベースとなって、所謂“フューチャー・ファンク” — ベースラインだったりテクノからの影響だったり — そういう音像に対する興味が三人の中で生まれていったんです」
 
■でも、テクノだったりハウスのようなジャンルは、以前から皆さんが追っていたジャンルではありますよね?過去に追っていたスタイルとここ数年の潮流は、どういった部分で異なるんでしょうか?
DJ Mu-R「よりいろんなモノが削ぎ落とされているんだけど、一音一音の存在感がより増しているジャンルというか — テクノの解釈も広いから、ハッキリと定義付けるのは難しいんですけど。自分の中では『テクノ寄りのハウス』みたいなイメージなんですよね。そういうのをミツさんに聴かせてて、そういった要素を作品に落とし込もうとした結果、今作が『出来てしまった』というのが正しい表現かもしれないです」
DJ Mitsu The Beats「それまでは、そういう音楽を聴いてたとしても、自分の作品として取り入れようとまではしてなかった。あるときから、自分の中でのHIP HOPの“枠”を完全に気にしなくなって、Mu-RとかとDJするときに、より無機質な感触の音をプレイするようになっていったんですけど、『ハウスとかテクノも好きだけど、自分が作るHIP HOPはHIP HOP』っていう感じだったんです。でも、『自分でも出来る』ってなって実際にやってみたら、『あ、コレ、イケるんじゃない?』ってなって。僕は、常に『この感じで作りたい』っていう個人的なトレンドみたいなモノがあって、それを繰り返して作ってきてる感じなんですけど、その過程で発見した感じですね」
DJ Mu-R「特に今作は、ミツさんのそのタイミングにバチッとハマったんですよね。だから、ある種ミツさん主導なアルバムというか。『VG+』の頃は、どちらかというとHUNGERさん主導だったし」
HUNGER「今作は、兄貴のモチベーションに引っ張られていた部分がある。しかもそれが、三人の総意としてもある状態で進められて、新しいことをそうやって作れたっていうのは、すごい幸せなことじゃないかな?って思います。今作を聴いてみんな、『新しい』って言ってくれるんですけど、Mu-Rも市販のトラックでライヴするときに必ず言ってくれるのは、『日本でこのトラックでラップしてる人、他にいないですね』ってことで」
DJ Mu-R「それもデカイんですよ。ああいうトラックに載れるラッパーはそんなにいないんじゃないかな?って。ラップすることは出来ても、より馴染ませて作品として出せるというレヴェルでは。でも、HUNGERさんはかなり早い段階でそれをやってくれたんで、『あ、また見えた』、って」
HUNGER「そうだね、『見えた』感っていうのは大きかったね」
DJ Mu-R「それがあったから、『あ、次(の音楽性に)行けるな』って思えた」
 

To Page topTo Page top