INTERVIEW:

PUNPEE

「自分的には、こういう『変な』アルバムだけど、みんながちゃんと聴いてくれてそれぞれ解釈してリスナー間で話し合ってくれればそれでいいや、って考えるようになりました。最初は、『クラシックと呼ばれるモノを、俺はみんなから期待されてるんだ!』っていうプレッシャーがあった。だけど、結果的に作ってみたら自分らしい作品で自分が今やりたいことを全部出来たと思うんで、それをみんなが聴いて喜んでくれてるから、その流れ/ムーヴメントを見てるだけでも『出してよかったなー』って思います」

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 PUNPEEが作品を通して広くその才能を知らしめる契機となったのは、PSG唯一のアルバム「DAVID」だろうが、あの作品が発表されたのは8年も前の2009年のことだ。それ以降、彼は多数のプロデュース作品/リミックス・ワーク/企画色の強いプロジェクトなどを通して、HIP HOPリスナーはもちろんのこと、様々なフィールドの感度高いリスナー/アーティストたちに強い刺激/印象を与え続けてきた。彼は、HIP HOPのみならず、2010年代の日本の音楽シーン最重要キーパーソンのひとりといった大仰な評価をするに相応しい存在にまで成長した。満を持して発表された初のソロ・アルバム「MODERN TIMES」は、そんな彼が10年近くかけて続けてきた“旅路”のひとつの集大成であり、オフィシャル作品としては初めて「PUNPEEというアーティストそのもの」がリスナーに向けて大開放されたアルバムでもある。
 
 「MODERN TIMES」は、チャート・アクション/売り上げもインディHIP HOPアーティストとしてはかなりの好調振りだと聞くし、世間の評価も軒並み高く、傑作と呼ぶに相応しいアルバムなのは確かだ。だが、その一方で、細かく分析するのがなかなか困難なアルバムだとも筆者は感じている。彼のメロディ作りなどに表われるポップ・センスやコンセプチュアルな作品をまとめあげた構成力など、大雑把に評価することは簡単だが、そこからもう一歩踏み込んでいくと、文章で明快にこの作品の素晴らしさを表現するのは難しい……実に物書き泣かせなアルバムだ(笑)。
 
 ……と、いう感じで、その仕上がりの素晴らしさに唸りつつも、少し困りながら筆者は「MODERN TIMES」を聴き込んでいたのだが、そのタイミングで筆者がハマっていたドラマがNetflixで公開されている『ストレンジャー・シングス』で、このドラマを観たことがひとつのヒントとなった。
 
 『ストレンジャー・シングス』は、80年代前半のアメリカを舞台にしたSFホラー・ドラマ・シリーズで、真っ当な娯楽作品として楽しめるだけではなく、様々な形で80年代サブ・カルチャーのオマージュが過剰なレヴェルで詰め込まれている作品でもあるため、30代後半〜40代以降の世代にとっては強烈なノスタルジーも喚起させるドラマだ。エンタメ性とボンクラ性、両方を高いレヴェルで共存させているため、老若男女問わず、世界的に多くの視聴者を巻き込んでセンセーションを巻き起こしている。
 
 「MODERN TIMES」もまた、『ストレンジャー・シングス』と似た構造を持つ作品だ。それは、作品内に込められたオマージュの多さという意味でもそうだが、何よりもクリエイターの“作家性”が、ストーリー自体に込められたメッセージではなく、そういったオマージュの取り入れ方を通して強烈に主張してくる部分が共通している。そして、そういったオマージュ/サンプリング元を知らない視聴者/リスナーであっても、素直に面白い/良い作品として受け入れられるポップ作品としての強度もある(なので“カルト作品”ではない)。そもそも『ストレンジャー・シングス』の製作者陣も、ハナから全視聴者が作品に織り込まれているオマージュの全てを理解できているワケがないと思っているからこそ、『ストレンジャー・シングス大解剖』というスピンオフ作品で惜しげもなくネタばらしをしているのだろう。サブリミナルな形でオマージュや影響源を含ませて消費者側に様々な解釈をさせるのではなく、オマージュ性が強いという前提を与えた上で、ネットなどを通してその“解読”の共有を促し、その結果ムーヴメントになるというのは、映画/音楽など2010年代のエンターテインメント作品の特徴のひとつなのかもしれない。「MODERN TIMES」は、そういった視点で聴いても、非常に巧みな構成のアルバムだ。
 
 PUNPEEがこれまでの多岐に渡る活動を通して世に放ち、散らばった形で点在していた諸要素や、PUNPEE自身を構成する諸要素を、如何にひとつのアルバム=物語として昇華させていったのか?今回のロング・インタビューはそういった部分に着目して読み進めていただけると幸いだ。PUNPEEによる「MODERN TIMES大解剖」と呼べるほど細かい部分まで掘り下げてるとは言えないが、少しはリスナーの“解剖”の手助けになるかもしれない。
 
 
■まずは初の全国ツアー、お疲れ様でした。全会場ソールド・アウトだったとのことで、大成功だったと言っていいと思いますが、PUNPEE君が自分で振り返るとどんな感想ですか?
「最初、SUMMITさん発案で『(ワンマン・ツアーを)やろう』って話をもらって」
 
■“さん”って……所属レーベルなのに(笑)。
「一応、付けてみました(笑)。だから、自分的にはどういう感じになるか全然分からなくて。ツアー自体も初めてだったし、どういう規模感になるのかも分かってなくて。アルバムもまだ出来ていない段階でツアーをやるって決まったんで、(最初は)結構不安でしたね。アルバムは当初、9月20日の発売予定だったんですけど、ツアーが10月9日から始まるのは決まってるのにアルバムのリリースが延びたんですよ。で、『コレ、ツアーあるから絶対その前に(アルバムを)出さないとヤバイな……』ってなったりして、結構、根詰めてた感じでしたね」
SUMMIT増田「『卵が先か鶏が先か』じゃないですけど、『アルバムを作る』って決めなかったらツアーも組めないし、ツアーを組まないと『アルバムをマジでやらないと』ってならないから、その両方……別に、脅迫的なアレはなかったですけど」
「(笑)脅迫はないけど、『大丈夫かな……?』っていうのはありましたね。初めて考えることが多すぎて。でも、結果的に(追い込まれたことで)アルバムのイントロ“2057”でお爺ちゃんが喋るアイディアとか、そういうのを思い付くためのリズムを早めることが出来た気がするから、それはよかったな、って。でも、今後は最初にツアー日程を設定するのは二度としてほしくないかも、です(笑)」
 
■渋谷クアトロでの追加公演では、「ソロのライヴは10回もやったことがない」というようなことをMCで言っていましたよね。
「10回ってことはないだろうけど、多分、20回もやってないんじゃないですかね。PSGとしてのライヴやDJプレイはあったけど、(ソロ)ライヴに関しては、声もすぐ枯れちゃうから『大丈夫かな?』ってずっと思ってて。俺ら世代って、基本的にライヴ活動を経て音源を出すっていう感じじゃないですか。今の世代は音源が先にあってライヴ活動がある、っていうケースもある感じかもしれないですけど。5lackやGAPPERはずっとライヴをやってきて叩き上げから音源を出したけど、俺はキャリア的にラッパーとしての場数をそんなに踏めてきたワケじゃないんです。だからこそ不安だったんですよね。最初のライヴ(札幌公演)とかヤバかったっすよ、緊張しまくっちゃって(笑)。ライヴの一曲目が“Lovely Man”だったんですけど、ナヨナヨした曲なんだけどライヴ中の顔付きがヤバすぎたらしくて、なんか、社会派ラッパーがマジに歌うときのシリアスな表情であの曲を歌ってたらしいです(笑)。そこからは徐々に慣れていきましたけど。結局、自分のワンマンだから、お客さんは自分のことを観に来てくれてるわけじゃないですか。だから、最初はなんでそんなにビビってたんだろう?って感じもしましたけど」
 
■ライヴ時に特に意識していたことはありますか?
「今回、イヤモニ(イヤホン型のモニター)を付けてみたんですよ。フジロックに出たときに作ったんですけど、ライヴより家で録る方が主体だったから、耳元で音の“返し”を聴いた方がよりメロディが取りやすいんじゃないか?って思って。あと、声の出し方とかはスタジオに入って練習したりしましたね。KOJOE君に教えてもらったり。KOJOE君、メロディも歌えるじゃないですか。彼がNYに住んでた頃に勉強していた練習とか聞いたりして」
  
■PUNPEE君のラップの発声って、やっぱりライヴで忠実に再現するのは難しかったりするんですか?
「難しいかもしれないですね。ライヴ向けに張った声にしちゃうと自分じゃなくなっちゃうから、そこはPAさんと協力しつつやるのがベストなんですけど、そういうことが全会場で出来るワケじゃないから、そこは自分のスキル的に今後の課題なのかな、って。さっき話したように、自分は音源を作るようになってからライヴをするようになったが故のこういうやり方だけど、ライヴ活動から始めたラッパーにとっては自然と培われていることなんだと思います。だから、やり方としては変なのかもしれないけど、コレはコレで新しいのかな、って思ったりしてますね」
 

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