INTERVIEW:

サイプレス上野とロベルト吉野

「バトルももちろん好きだけど、『バトル・ブームからHIP HOPブームに繋げましょう』とはもっと違う方向性の動きをするのが俺には相応しいのかなって。そして即興性よりも、もっと構築されたモノというか、作品として考えられたモノを作りたかったんですよね」 -- サイプレス上野

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 冒頭から作品の話とズレて恐縮だが、筆者が昨年構成を手がけさせてもらったサイプレス上野著『ジャポニカHIP HOP練習帳』(双葉社)の制作中に起こったのが、相模原の『やまゆり園』での事件だった。制作においてそのことを念頭に置くという明確な取り決めはなかったし、著書の中でもそのことに対しては触れていないが、「何故ああいった事件が起きてしまったのか?」ということに関して、構成中に何度となくサ上と話した。そして、そもそも著書で話しているように、サ上が持っていた「他者を排除しない」というメンタリティやイズムは、その事件に対するひとつの回答とも思えたし、その部分を本の中では強くフォーカスしたつもりだ。

そして、サ上とロ吉でのメジャー進出作となる「大海賊」にもそういったメンタリティは強く反映されている。詳しくは本文に譲るが、作品の中に通底する“肯定”の発想や皮膚感としての“リスペクト”、そのブレのなさには、彼らがメジャーに行こうともまったくその存在感やスタンスは変わることがないと思わされたし、同時に、「排除すること」に対する躊躇がなくなっていっている“今”だからこそ必要なアーティストなのだと思わされた。

もちろん、そういったメッセージ性に加えて、ポップなエンターテインメント性も込められた今作。サ上とロ吉の新たな進撃を感じさせる一枚だ。(インタビューにはサ上のみ参加)

■SNS上で「戸塚駅で理不尽な暴力を受けていたホームレスをサ上が守った」という投稿が流れてきて話題になったけど、そのことから教えてもらえますか?
「警察が調べてる事案だから詳細は話せないんだけど、まあ、JETが言ったみたいなことがあって。そのホームレスとは実際に会えば挨拶したりするような顔見知りだったし、知り合いが理不尽な暴力を受けてたら助けるのは当然でしょ、っていう。そういう感じかな」


 
■それ自体、本当に素晴らしい行動だと思うのですが、もっと感動したのが、その行動は去年出した単行本『ジャポニカHIP HOP練習帳』で話してたことと同時に、今作のリード曲“メリゴ feat. SKY-HI”に繋がってると思ったんです。あの本で上野君が語っていたのは「誰も排除しない」ということだったし、今回の“メリゴ”の「でっけえな地球/ちっちぇえな俺たち/それなのに手のひらの中に/あるような気がしているから/それぞれにそれぞれのドラマ/放映中してるそうです/打ち切りなしで生き抜こうぜ」というリリックから感じる、「それぞれの人生にはそれぞれのドラマがあるから、それを互いに尊重してリスペクトしなくちゃいけない」というメッセージも、その行動に繋がると思いました。いわば、他人のドラマを否定したり想像できないから他者を排除したり、理不尽な暴力を振るうことに躊躇が無くなる。だけど、上野君はそのドラマを尊重するから、そのドラマを否定された人間を守るという。そして、それはすごくHIP HOPイズムだと思ったんですよね。
「うん。そう言ってもらえれば。もうひとつは — それは“WHAT’S GOOD”にも繋がるんだけど — この曲を書いた理由としては、やっぱり油井(俊二。サ上が高校時代に組んでいたグループ:DREAM RAPSのDJであり、幼馴染)のことも大きかったすね。身近なヤツが死んじゃうっていうことに対する『マジか……』っていう気持ちが本当に強くて。でも、今まで油井について話してたように、今でもギャグ混じりで話してますけどね。この前も謎みっちゃんが『お盆だから、ナスで牛を作ったら油井君がそれに乗ってくるかな〜』って。サンタクロースじゃねえんだから、っていう(笑)。話を戻すと、そういう悲しい方向で驚くことも当然あるし、一方で『フリースタイルダンジョン』でTVのレギュラーになったようなポジティヴな驚きもあって。自分の行動の上でもそうだし、自分が思わないところでも変化が生まれることがあるわけで。でも、『みんなで一丸となって行きますか』っていうのは難しい時代だから、それを踏まえて『それぞれの人生を生きればいいんじゃね?』っていう。(アントニオ)猪木さんで言えば『おめえはそれでいいや』っていう名言をポジティヴに捉えた感じですね」

■SKY-HIも「OLIVE」でそういった肯定のメッセージを発していたわけだから、タッグを組んでこういった人生を肯定する曲を作るのは必然だったとも思います。サウンド的にもすごくポップな曲だし、SKY-HIを呼んだことで“売れ線”という誹りもあるかもしれないけど、文脈を考えれば何もブレてないですよね。
「LEGENDオブ伝説名義でのDJでは、(星野)源ちゃんの“SUN”とか普通にかけてたし、サ上とロ吉のライヴでも勝手に使ったりしてて(笑)。今は本人公認だけどね!他にも赤い公園の“黄色い花”とか、そういうソウル/ディスコ路線の楽曲やリ・エディット、ブギー物も当然好きだったんだけど、自分たちの曲としてはあまりやってこなかったんですよね。だから、レパートリーとして単純にそういう曲も欲しかったし、『モテキ』とかの劇伴を中心に手がけてる(岩崎)太整君に『そういうタイプの曲が欲しいんだけど!』ってオーダーしたら、完璧にそのオーダーで作ってくれて、ふたりで『ヤバイ、これは“SUN”過ぎる!源ちゃんのファンに怒られる!』って(笑)。それで、FUNKY 4+1の“THAT’S THE JOINT”みたいなパーティ・ラップ的な要素をもう少し込めて、この形になったんですよね」

■しかも、“SUN”よりもBPMは速いし、サルソウル・ディスコっぽい派手な感触もあって。
「正直、今まではこういう曲を作ることに対するテレがあったのは間違いない。でも、本質的な部分でこういう曲は好きだから、それをごまかすのも変だし、その上で完全に突き抜けたモノにしたかったんですよね。だから、コレを聴いて『メジャーに行って変わった』とか言うならそれでもいいし、『変わった』って言われた方がいいのかな、って。『やっと来たな』とか『コレが出来るんだな』って思わせたら正解だと思うっすね」

■その中に、スチャダラパーやMICROPHONE PAGERとかのリリックの引用が入るのが上野君らしいな、って。
「そういう部分は入れときたかったですね。“HIP HOP警察”ですよ(笑)」

■また時間が経って読んだらワケが分からなくなりそうな時事ネタを……。

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