INTERVIEW:

HUNGER (GAGLE)

「ただ行くだけでも旅は楽しいけど、それプラス、自分が持っている何かを分かち合えるという意味では、HIP HOPは最高なモノじゃないですか。チャンスがあれば自分の音を現地の人に聴かせたいし、そういうやり取りが出来たら旅ももっと面白くなると思ったんです」

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 これまで書く機会がなかったので、ここで敢えて書かせて頂きたいのだが、筆者は「日本で最もスキルフルなMCトップ10」を挙げろと言われたら、迷わずGAGLEのHUNGERをそのひとりに入れる。彼の、オリジナルだが奇抜なだけに陥らないでリスナーの共感を引き出すワード・センスや、長年の活動で培ってきたフィジカルの高さは、現在彼が受けている評価以上のモノである筈だ。
 
 そのスキルの高さは、HUNGERにMCとしての絶対的な自信を与えてきたと同時に、彼以外のMCがどんなグルーヴ/スキルを備えているのか?という好奇心も与えてきたようだ。2000年代後半から、彼は趣味でもある“旅”を通じて交流した海外のラッパーたちと多数コラボを重ね、主宰レーベル:松竹梅レコーズから7インチなどの形態でリリースを重ねてきた。2001年にGAGLEとして「BUST THE FACTS」をリリースして早15年。HUNGER名義では初となるソロ・アルバムである「SUGOROKU」は、そうしたコラボ楽曲を軸にまとめられた作品であり、そういった意味でソロ作としては異色な立ち位置のアルバムだ。
 
 一言にラップと言っても、言語が変わるだけで発音も文法も異なる結果、まったく違う聴感になるというのは、日本語と英語のラップを比べるだけでも明らかであり、そのため、日本語と他言語のラップが一曲に混ざると、どうしてもチグハグした印象の楽曲になりがちではある(そこには、言葉の壁によって内容面で統一感のある曲が作りづらいという事情もあるだろう)。だが、「SUGOROKU」で聴ける海外勢とのコラボ曲からは、多言語を理解できなくても感じることの出来る、“グルーヴ”という共通言語が聴こえてくる。本作を聴けば、グルーヴとグルーヴがガチンコでぶつかり合った結果生まれる、スリリングだが美しい瞬間を何回も体験することが出来る。それは、旅人なら誰でも経験したことがあるであろう、旅先での交流で得られる感慨と同質のものかもしれない。そういった意味において、本作は、旅人:HUNGERがラッパーだったからこそ形にすることの出来た、貴重な“旅行記”だ。
 

 
■GAGLEとしてデビューしてから15年。ソロ・アルバムという括りでは今回が初の作品になりますね。
「今回のアルバムは、流れで出したという意味合いが強いですね。2008年にモンゴルに行って、そこで偶然出会ったアーティストと録音したところから、『こういうのは誰もやったことがないだろうな。聴いてる人にも何か発見があるだろうな』と思って作ったのが始まり。GAGLEとして曲を作ったりライヴをやりながら、自分の趣味の領域も兼ねた活動として、(ソロ活動/コラボを)やってきたんですよね。で、そういった曲が溜まってきたから、それをまとめちゃった方がいいだろう、って単純に思って作ったっていう感じです」
 
■GAGLEはHUNGER君の1MC体制なわけだから、ソロ・ヴァースがメインですよね。だから、他のグループに所属しているMCと比べると、ソロ活動に対する願望って薄い方なんですかね?MCとして表現したいことは、結構GAGLEで出来ちゃう、というか。
「出来てるっすね。願望は他の人と比べたら薄い方だと思いますよ。自分のやりたい表現も出来てるし、GAGLEの世界観が窮屈に感じることもない。活動初期は、『もっといろんなビートでやりたい!』みたいな欲求があったんですけど、兄貴(DJ MITSU THE BEATS)の音もどんどん進化してるし、好きな音楽も一緒だから、進化の仕方も似てる。だから、不満はまったくないんですよね」
 
■GAGLEがずっと同じことをやり続けるような保守的なグループだったら、また話は違ったかもしれないですけど、そうではないですもんね。
「一般的なイメージだと、ジャジーなモノだとか、メロディ先行なイメージがいまだ強いみたいですけど、どんどん変わってきてますからね。そういった部分は、GAGLEの次作でガッツリ出て来ると思います。だから、『SUGOROKU』では敢えて今のGAGLEの流れには寄せないようにしようと思ったんです。普段だと、各曲をミックスして、そこからマスタリングして、それが最終的にCDになるじゃないですか。今回は、作った時期にバラツキがあって、2008年に作ったモノから今年に作ったモノまであるから、音的にまとまりが出ないんですよね。それでもアリなんだけど、ひとつの作品としての空気感が欲しかったから、一回アナログの質感に全曲をまとめてみようと思ったんです。ミックスした音源を、そのままアナログのラッカー盤/ダブ・プレートにして、そのレコードをマスタリング・エンジニアがレコード・プレーヤーで再生しながら音の調節をしていって、マスタリングしたんです。そうすると、やっぱり丸みと温かみが出ますよね。次のGAGLEのアルバムは、『冷たい質感』になると思うんで、こっちは温かい音にして。“旅”でいろんな人に会ったりすることって“触れ合い”だから、そういうところもアナログな音にしたら表現できるな、って」
 
■“旅”は、昔から好きなタイプだったんですか?
「好きなんですよ。なんか、ハマっちゃったんですよね(笑)。でも、ハマったのは遅い方だと思います。23〜4歳の頃に、初めてインドに一人旅したんですよね。キッカケは……そのときプロレスラーの西村修って人にハマってて、その人が『人生に困ったことがあったら、取り敢えずインドに行け』みたいなことを言ってて(笑)。それで2週間ぐらい行ったんですけど、そこで良い経験も悪い経験……悔しい思いをして帰ってきました」
 
■ボラれたりとか?
「まあ、ボラれたりとか、閉じ込められたりとか」
 
■……閉じ込められた!?
「それも西村さんのせいにしちゃいますけど、『取り敢えず宿なんて決めないで裸一貫で行け』って言ってて、それを真に受けて行っちゃったんですよね。初日以外は宿を取らないで、そこからは何も決めないでいたら、やっぱりいろんな人が寄ってくるし、面倒だと思ったから観光局に行ったんです。そのとき、インドで信頼できる観光局はふたつあって、インド観光局とDTTDCっていうの以外は大体ヤバイから行かない方がいい、と言われて。で、DTTDCに行こうと思ったら、“DTTEC”みたいな店が並びにいっぱいあるんですよ(笑)。僕はそんなトラップには絶対にハマらない自信があって、念のためふたりに場所を聞いて教えてもらったところに行ったら……間違えた(笑)。そしたら、カシミール地方っていう、パキスタンとの国境近いところに飛ばされちゃって、ちょっとした軟禁生活が始まっちゃうんです」
 
■軟禁!!
「鍵を外からかけられちゃって」
 
■そんな大トラブルに見舞われたんですか!?
「そんな大したことじゃないですよ。でも、流石にそのときは参っちゃいましたけどね。最終的にはカネを巻き上げるための追い込み方をしてくるだけだから、体を傷つけられたりとかはなかったですけど。山岳地帯でキャンプをして、そこで本物のジプシーに会わせてくれたりもしたんで、『……案外悪くないヤツらなのかも』とか思ってたら、次の日には一気にテンション落とされるような出来事があったり。家族の家に閉じ込められたんですけど、何日もそこにいたからそこに住んでる子供と仲良くなって、最終的にはその子に助けてもらったんです。その子が『お兄ちゃん、このままだと帰れないよ』って、涙ながらに話してくれて、彼が助けてくれて最終トラップを回避して帰ることが出来た。まあ、多分よくある話なんだと思いますよ。本当に危ない目に遭ったことがある人は、『インドはヌルい』って言うし。大変な目には遭ったけど、最後に助けてもらった体験が出来たから、悔しかったけど、『旅ってすごくいろんなモノを与えてくれるな』って思ったんです」
 
■終わり良ければ全て良し、と(笑)。
「そうそう(笑)。ちょっとした爽快感と感動があったし、日本にいたらそういうことはないですよね。そこから、制作やライヴ期間の隙間に時間があれば、いろんな国に行くようになったんです」
 
 

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