INTERVIEW:

SKY-HI(前編)

「アルバムを聴き終わった後、ライヴを観終わった後に、リスナーには自分の人生が待ってるわけじゃないですか。僕の場合は、リスナーを音源やライヴに陶酔させて現実逃避させるんじゃなくて、『あのライヴを見たから/あのアルバムを聴いたからこの現実/明日の問題と戦える』っていうようなモノにしたいんです。僕の作品の強さを、リスナーその人の強さに変えて、自己肯定する材料にしてほしい」

skyhi_main
 
 初のソロ・アルバム「TRICKSTER」のリリースから約2年。その間に“スマイルドロップ”や“Seaside Bound”などのシングル・リリースや、圧倒的なエンターテインメント性を提示した『〜Ride my Limo〜』ツアーなど、積極的な活動を展開していたSKY-HI。
 
 そういった活動を経て制作されたニュー・アルバム「カタルシス」は、非常にコンセプチュアルで壮大な、一曲一曲ごとにそれぞれの世界があるのだが、それを紡ぎ合わせると、全体を通してひとつの物語やメッセージが浮かび上がる、“ラップ・オペラ”のような構造性/構築性の高いのアルバムとして完結した。
 
 ある種、“永劫回帰”や“自由意志”といった思想に近い、哲学的とも言えるモチーフや、それを表現するためにダブル・ミーニング/トリプル・ミーニングの多用されたリリック、楽曲同士の世界観の連携、そして濃厚な“死生観”など、非常に構造的で、有り体に言えば「ややこしい」作品であることは否めない。事実、インタビューでも語られる通り、それは意図的なモノだとSKY-HIは話す。
 
 しかし同時に、確かな言葉で綴られる“アイリスライト”や、ポップ・ミュージックとしての強度が非常に高い“カミツレベルベット”など、ポップで明快な作品であることも事実だ。
 
 そういった複雑さと明快さ、ポップさとHIP HOP性、束縛と自由、自己と他者、生と死……そういった相反したり、相対的な物事を、SKY-HIは彼の視点から止揚し、統合し、「その先」を提示する。そして、その先が見えたときに灯る感情は、「カタルシス」。
 
 
■まず、今回のアルバムの話に入る前に、1stソロ「TRICKSTER」からの約2年は、SKY-HI君にとってどんな時間だった?
「『TRICKSTER』を出した後には、音像やイメージを含めて『次のアルバムはこういう作品に』っていうイメージが既にあったんですね。だけど、『TRICKSTER』後のライヴの中で、『この内容だと根っこに持ってたメッセージが伝わってないのかな』っていう反省と気付きがあって。そして、その一番の原因は歌詞力、“カシヂカラ”の不足だと思ったんです。だから、その部分を磨き直して、“リリック”じゃなくて“歌詞”としての強度をもっと高めないといけないと思って。それで、スタッフにも『自分で納得がいくものが出来るまで次のリリースはしない』っていう宣言をしたんです」
 
■でも、一応レーベルとしてのリリース計画は決まってたんでしょ?
「うん、それを全部一旦白紙にしたんですよね。例えば、星野源とかゲスの極み乙女とか、“チャート1位”っていう数値的なトップも取りつつ、パブリック・イメージとしても今の音楽シーンのトップ・ランナーだって認められる人がいるじゃないですか。その中に自分が食い込んでいって1位を獲るって決めてたんで、ここで納得のいかないモノを出すと、そこに食い込む前にSKY-HIが沈没しちゃうと思ったんですよね。だから、『自分が完全に納得できる曲作り』を始めたんです」
 
■そこで掲げたテーマやハードルはどういったものだった?
「『自分の気持ちを全部吐き出しながら、しかもポップ・ソング』でしたね。その目標の上で、とにかく一曲に対してトライアル&エラーを繰り返して。しかもその期間が9ヶ月/182テイクにも及んだんです。漠然と作るのではなく、自分の中のOKラインが明確に見えていたんだけど、そこに辿り着くまでがとにかく大変で、地獄のような9ヶ月を経験することになりました」
 
■そこまで時間がかかった要因は?
「ビート・ジャックが、自分がラッパーとして評価される契機にもなったんで、『早く書く美学』みたいなモノが自分の中にあったんです。だから、どうしても手クセだったり“ノリ”がリリックに入って来ちゃって。例えば、『韻を踏むためだけの言葉』が入ってしまって、それで歌詞世界が崩れてしまったり、『リリック性が歌詞世界を邪魔する』って部分があったんですよ。だから、それを超えるために『歌詞を書く人』としての強さが必要だったし、それを手に入れないと先に進めないと思ったんですよね。単純に言うと、漫画の絵が上手いのと、絵画の絵が上手いのって、絵の方向性は違うかもしれないけど、根本的な“画力”はどちらとも必要だし、共通してるじゃないですか」
 
■デッサン力みたいな、ベースとなる部分というか。
「そういう根本的な部分を強くしたかったってことですね。それを今やらないとなって」
 

 
■それで出来たのが“スマイルドロップ”だったと。
「そうですね」
 
■出来上がったときは、達成感があった?
「正直、『出来た』とは思ったけど、大きな手応えはなかったです。だけど、“スマイルドロップ”が出来て以降、どうやって曲を書いても、ちゃんと自分の納得のいく歌詞が書けるようになったんです。ビートジャックのときと同じようなスピードで書いても、手クセじゃない内容になったので、何かが変わったんだなって。その上で、問答無用のポップ・ソングを作ろうと思って作ったのが“カミツレベルベット”だったんですよね。そして、あの曲を作る中で、仮歌を入れたときにふっと、『Everything’s gonna be alright』って歌詞が浮かんで。それは、今までの自分だったらありえないことだったんです」
 
■というと?
「今までは不条理だったり、認められない努力、叶わない夢みたいなフラストレーションが自分の中には強かったし、そういうメンタルの持ち方でもあったと思うんですよね」
 
■確かに、SKY-HI君は脳天気に「全てはうまくいく」なんて軽く言うタイプではないよね。
「でも、その地獄の9ヶ月を経た後に『Everything’s gonna be alright』って言えて、それを自然に言えた自分に、本当にカタルシスを感じたんです。『こんな日が来るんだ』って。そこからアルバムのプロットが生まれて、やっとこのアルバムの制作がスタートした感じですね」
 
 

To Page topTo Page top