COLUMN:

追悼:DJ KENSAW — 2007年のインタビューを公開

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 更に、日本語ラップ・ファンに対してはこう語る。

「あの音は絶対聴いとけ、とか俺が言う必要はないと思ってる。無理して聴いても身体に悪いからな。『誰々が言ってたから、この曲は聴かなアカン』とか、大きなお世話やと思う。けど、みんなも折角好きになった日本語ラップやったら、CDが売れてないとか、アイツは嫌いやとか、そんな話は“邪念”やから。楽しくなかったら、よそに目を向けてええと思う。邪念が抜けるまで離れて、それで戻ってきたらええと思うし、離れるのも自由や。『オマエが好きであろうと嫌いであろうと、日本のHIP HOPはなくなれへんから心配すんなよ』とは言いたいな。ヴェテランもスキル・アップするし、若い子も進化してるし、日本のHIP HOPは本当、問題ないから。音楽に対しては文句言わんでもええ。(音楽をやってる)そいつにも意味があるから、怠けてようが本気やろうが、他人が文句言う必要はない。リスナーとしてホンマに気に入らんかったら、自分でやればええと思うし。“休業”とかそんな言葉もHIP HOPには必要ないねんな」
 
 
 そしてこのインタビュー中、氏の自宅で流れていたBGMもまた、HIP HOPではなかった。筆者が指摘すると、氏はこう語った。

「ここでかけたらお互いHIP HOPが大好きなふたりやし、聴き込んでもうて無言になると思うねん。それやとインタビューになれへんやろ?けど、HIP HOPに限らず、『聴かなあかん』って(義務に)思ってる音楽は、家に一個もないな」
 
 
 次は、果てしなき道のり、彼がこれまで活動を続けてこれた原動力について。

「まだ俺はメガ・ヒットを作ってない、ってのも理由としてあるかな。“OWL NITE”は大阪でやってるってのを証明こそ出来たと思うけど、まだまだやと思ってるから。俺は、嫌なことはすぐやめる性質やけど、DJは奥深いというか、完成させられへんし、完成したとかもないんかもしれんけど、やめられへん。これしか出来ひんし、これがなかったら……、考えられへんな」
 
 
 彼の考えるHIP HOPとは?

「カッコ良く言うたら生活。けど、HIP HOPを絶えず聴いてないとそれが出来ない、ってところにはいない。HIP HOPから離れて不安になって、他の音に押しつぶされそうになって戻ったときにどんな音が生まれるか、ってところ。時にはHIP HOPの鳴ってない街に行って、恋しくてHIP HOPを聴きたくなって戻ってくる。その繰り返しがしたい。見識を広めたい、ってことかな」
 
 
 そして話は当然、商業面にも及ぶ。

「カネに執着がないわけやない、ベンツにも乗りたいし、南国に豪邸も欲しいよ。けど、カネのこととかいまだによく分かってないし、昔、ミックステープを出したときも、『そんなに売れてんの?』ってよりは『そんなにいっぱいの人が聴いてくれてんの?』って感覚。それは今でも変わらへん。HIP HOPにはファッションとか二次的産業みたいなもんも沢山あって、もしかしたら今はそっちの方が儲かってるのかもしれん。けど、俺はHIP HOPの話をしたい。そこからズレたらオレには分かれへんから。俺はイエローやけど、あんなに遠く離れた国の、マイノリティの黒人の音楽にヤラれて、俺と同じようにそういうHIP HOPが好きでどうしようもないような連中が集まって作ったんがこの『月刊RAP』なわけやろ? だから、こういう場を与えてくれて、『俺のルーツを喋れ』って言われたら……俺は絶対に嘘は付かれへんしな。今回、この場を与えてくれた方々、ありがとうございます」
 
 
 こうした彼の愛情は当然、地元勢にも向けられる。

「MISTA O.K.IとかSHINGO☆西成とかも、長年やってきて説得力も付いてきて、昼間とか滅茶苦茶礼儀正しいし、ホンマに律儀やねんな。ああいう連中は、絶対邪険には出来ひんで。俺は、『集合時間に遅れてバスの一番後ろに座って』みたいなんをカッコええと言うよりも(若いときはそうやったけど)、『集合時間5分前に来て、前に座ってる方が渋いねん』とか、そういうことも若い子には何気なく伝えたい。これは例えばな話やけど、実際、いろんな人から言葉や態度で教えられたし、最近は素直に笑うことも出来るようになって来たと思うし。DJ SOOMAとか、昔の俺と考え方が似てるんかもしれんけど、INSIDE WORKERSとかには凄い才能があると思ってるし、大成してもらいたいからこそ、そういうことも伝えたい。逆に、若い子たちからいっぱい教えてもらうことも多いけど……、案外、HIP HOPのイベントできっちりカネ儲けできてるような人たちは、そういうところがちゃんと出来てるのかもしれんで」

 そんな彼の磁場に引き寄せられたMC陣とのレコーディングは、

「DJしてる人なら分かると思うけど、DJする前の日に『お客さん、この曲で盛り上がるやろな』とか考えるのって楽しいやん。それと一緒で、曲を作ってるときが一番楽しくて、レコーディングのときは意外と冷静。既に次の作品が頭で鳴ってるからな」

 次作以降、すなわち今後の動向については、

「RZAが傾倒していってるみたいに、俺も映画音楽には興味があって。主題歌とかやなくて、ワン・シーンとかの音をやりたいかな。あと、2年前くらいから、演歌の意味が — 入り口やけども — 少しは分かるようになって、今年の秋冬に和物のビート集も出す予定やから、聴いてみてほしい。俺の作品は、ずっと繋がってる。GLITTER ZOOの最後の曲の打ち直しが今回のアルバムに入って、今回の最後の曲が次の作品に入るから。ずっとコンスタントに自分の音を出していきたいな。俺の作品を聴いてくれる人がどれだけおるかは分からんけど、そういう人らは……2枚買ってくれるんやろなって思ってる」

 実に、筆者が彼の自宅に到着してから家路につくまでの8時間あまり、彼はHIP HOPの話以外、ほとんど口にしなかった。20年近く、「ストリクトリーHIP HOP」の象徴として活動を続けてこれたのには確固たる理由があり、その高潔なスタンスは今も昔も、そしてこれからも、他の追随を許さないはずだ。
 
 
 この長編を締めくくるにあたり、ひとつだけ言っておきたい言葉がある、彼こそが本物の「HIP HOP DJ」だ。
 
 

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