COLUMN:

STRONG HOOD MUSIC — SLUM RC REPORT 2015〜2016

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「耳穴ほじりよう見ろ/こちとら泣く子も踊らすRC」 — MC KHAZZ
“silvio KHAZZ dante”(「WHO WANNA RAP 2」に収録)
 
 
 きっかけは、信頼すべき日本語ラップ・ヘッズの友人に名古屋に誘われて行ったことだった。約1年前の夏のことだ。そこで僕は名古屋を拠点とするHIP HOPクルー:SLUM RCのATOSONEとメンバーたちに出会った。いや、正確に言えば、既にメンバーの何人かには東京で会っていた。けれども、彼らの街で会うのは初めてだった。そして一発でSLUM RCの魅力にヤラれてしまった。彼らを見ていると、音楽は街に育てられ、街は音楽に育てられる。また、街と人間と音楽には強固な結びつきがある。そういう実感が湧いてくるようだった。こういう実感を味わえる機会は人生にそう何度もない。僕はできる限り彼らに取材を試みようと決めた。
 
 しかし、SLUM RCの取材はそう生易しいものではなかった。彼らは多くを語ろうとはしなかった。自ら饒舌に語り、素性や出自や環境について簡単に明かすようなこともしない。フッドのことについても最低限の話しかしない。そういう態度について閉鎖性や排他性という説明をしてしまえば容易い。が、そんな単純な話でもない。彼らは僕を歓迎してくれたし、無口なわけでもなかった。むしろ、ひょうきんで、バカ話が大好きで、よく笑い、情熱的で、ポジティヴで明るくて、人懐っこい連中だった。スラング混じりの仲間内の会話は異常にグルーヴィだった。メンバーの中には、いくらでもそのハードな環境やガチな不良の生き様を売りにしたっていいだろうと思える人間もいた。
 
 だが、彼らはそういうシリアスな話題について難しい顔で語ったり、これ見よがしにタフさやハードさを売りにしようとはしなかった。この日本語ラップ・ブームの中、誰もが我先に売れようとする時代に、SLUM RCの地に足のついたラップ・ミュージックは僕を激しく魅了した。酒をしこたまかっくらい、大声を出し、ダンスして、調子が出てくればDJやラップをする。調子が出なければやらない。SLUM RCはそこに関しては100%本気だった。シンプルにその瞬間を生きていた。彼らはそうやって己を表現し伝えることを選んでいた。分かりやすい物語や説明に回収されることを拒絶しているようにも思えた。いや、すでにAmebreakのインタビューでちゃんと語っているメンバーもいる。そういうメンバーの名誉のためにも書くが、これはSLUM RCのフッドで彼らのペースに巻き込まれ、セオリー通りのインタビューが、ことごとく上手くいかなったことの言い訳とも言える。
 
 だが、流石は「WHO WANNA RAP」という、挑発的なタイトルの作品を出す酔狂で豪快な男たちである。何度かフリースタイルにも巻き込まれたし、酔い潰れもした。僕はラップ・ミュージックを長年聴き、多くのラッパーたちに取材してきた経験から誓って書くが、SLUM RCほど凄まじいマイク・リレーを出来るクルーはそうはいない。そういうわけで僕は、惚れた弱みというべきか、SLUM RCに接触するために去年の夏から今年の夏にかけて、名古屋に3回、大阪に1回足を運ぶことになる。この記事はその記録である。
 
 
 まずは真っ当な紹介もしておくべきだろう。SLUM RCはラッパー/DJ/ビート・メイカー、デザイナーらから成るクルーだ。世代は20代後半から30代前半という幅を持つ。当初はRC SLUMと名乗っていたが、この1年の間だけSLUM RCと名前を変えている。
 
 このクルーは、近年東海地方(愛知/岐阜/三重)から巻き起こっているNEO TOKAI DOPENESSというラップのムーヴメント、その嵐の中心にいる。いや、その発火点と言った方が正しい。名古屋を拠点としていると言っても、彼らの全員が名古屋を“地元”とはしていない。名古屋市南区(COVAN)の人間もいるが、名古屋から少し離れた弥冨市(MC KHAZZ)、知立市(C.O.S.A.)、小牧市(NERO IMAI/CAMPANELLA/RAMZA)、あるいは三重県鈴鹿市(YUKSTA-ILL)や岐阜県(TOSHI MAMUSHI)の人間もいる。
 
 それでも、SLUM RCにとっては名古屋が“フッド”であろう。改めてSLUM RCのメンバーとしてクレジットされている名前を列挙すると、MIKUMARI(ラッパー)、YUKSTA-ILL(ラッパー)、CAMPANELLA(ラッパー)、NERO IMAI(ラッパー)、RAMZA(ビートメイカー)、COVAN(ラッパー)、MC KHAZZ(ラッパー)、C.O.S.A.(ラッパー/ビート・メイカー)、ATOSONE(ラッパー/デザイナー)、TOSHI MAMUSHI(ラッパー)となる。SLUM RCは、古いツレや先輩後輩がHIP HOPや音楽を通じて知り合い、あるいはHIP HOPや音楽を通じて知り合ったツレや先輩後輩になった仲間たちが遊び、歌っている。それで成立しているのがSLUM RCだ。
 
 だから、彼らはまず個々としてある。SLUM RCという集団として動き出したのは昨年のことだ。新興レーベル:CPF(CREATIVE PLATFORM)とディールを結び、クラウド・ファウンディングで制作費を集め、12月に会員限定のアルバム「WHO WANNA RAP」を発表した。
 
 その作品にはサルサやブギー・ファンクやラガ/レゲエ、オールドスクールHIP HOPや最新のビート・ミュージックの要素が盛り込まれている。“ORIGINAL RC”という曲ではクラシック・ビートでフックなしのハードコアなマイク・リレーが聴ける。近年稀に見る男気ムンムンの圧倒的なラップ・ミュージックだ。そして、その作品のリミックス盤「WHO WANNA RAP 2」が6月末に一般流通という形でリリースされている。BUSHMIND/DJ HIGHSCHOOL/MASS-HOLE/DJ KPP/OWL BEATS/RAMZA/TAKANOME/RYO KOBAYAKAWA/C.O.S.A./JUN PLANTらがリミキサーとなり、曲名もすべて変わり、まったく新しい息吹を吹き込まれている。ここでは作品の内容について詳述しないが、こちらも当然素晴らしい。
 
 

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